《多くの識者・専門家の予想を裏切って、米国の新大統領にドナルド・トランプ氏が当選した。世界は1929〜1933年の大恐慌の再来を警戒する必要がある。併し、良い事が何も無い訳ではない。平和呆け日本が普通の国に立ち直るチャンスでもある》

トランプ新大統領の誕生は唯一の超大国、米国の終わりの始まりである。トランプ氏を擁立した共和党は伝統的に〈小さな政府〉を標榜してきた。併し、トランプ氏は歳出を増やすよう主張している。共和党は独自の税制改革案として今年になって法人税の税率を現行の35%から20%に引き下げる案などをつくったが、トランプ氏は15%までの法人税引き下げを明言している。

トランプ氏の減税案は共和党案に比べて規模が大き過ぎる。更に、富裕層向けの所得税減税を含めると、減税額の規模は10年で6兆ドル(約624兆円)を超える。言うは易く行なうは難し。今でも金が無くて同盟国に米軍駐留経費を100%払えなどと言っているのに、一方では大々的に赤字要因をぶち上げている。財政赤字の肥大化は必至である。

大体、選挙期間中に政策論争など殆んどやっていないから、トランプ新大統領が何に何処まで本気で取り組むのかはまるで見えない。トランプ氏が口にしたのは「減税・通商政策・移民政策」の外郭程度である。では何故トランプ氏は大方の予想を裏切って大統領選挙戦に勝てたのか? 結果が出てみれば勝因は簡単である。

対抗馬のヒラリー候補は〈オバマ大統領の政策を継承する〉と公言していた。そのオバマ大統領は果たして米国大統領として相応しい成果を挙げていただろうか? 内政では、貧富の極端な二極分化を放置し、中間層の多くを貧困層に落ちるに任せた。外交では、東シナ海・南シナ海での中共の横暴に対応できず、中共のやりたい放題を許している。北朝鮮の核実験・ミサイル発射にも全くの無策。シリア問題では自らレッドラインを引いて、そこを越えたら実力行使をすると凄んで見せたものの、レッドラインを越えられても無為無策の腰抜け振りを世界に晒し、現在進行形で苛め抜いているロシアの空爆に救われた。ヒラリー候補はこのオバマ大統領の政策を継承すると言っているのだから、米国民の不満を受け止められる訳が無かった。

ヒラリー候補の私用メール疑惑は、直前にFBIの捜査は終わったものの、疑惑の本質は重大である。クリントン財団が国務省と癒着して多くの悪事を働いてきた為、国務大臣のヒラリーが公式メールサーバーを使うと情報公開法でクリントン夫妻の悪事が全部バレる。だから私用メールを使っていた。表向きは、公務のメールを個人的なメールアドレスで遣り取りしていた為の国家機密漏洩が問題視されているように見えるが、本質は〈クリントン財団の悪事がバレると将来、現職大統領の弾劾・逮捕に発展する可能性が高い〉。この問題の調査はまだまだ続く、決して終わってはいない。大統領戦に敗れたヒラリーにはこれからが悪夢だろう。大統領戦の結果が出た後だから言える事だが、こう考えるとヒラリーに勝ち目は無かった。

両陣営に別れて、互いに激しく罵り合い、トランプ氏に敵意を持った約半数の米国民を再びひとつに纏めるのは極めて大変である。敵は共和党主流派の中にさえ居る。米国が纏まる為にはかなりの時間を要するだろう。米国はもう、国内的にも、国際的にも、唯一の輝かしい超大国では居られない。国家の凋落が既に始まっている。そういう米国民も大変だが、国際社会にはもっと大変な試練が待っている。トランプ氏は大統領候補の時から中共のダンピングを激しく口撃している。トランプ新大統領の下では米国は極端に内向きになり、凡ゆる輸入品の関税を法外に上げるだろう。日本が先走っているTPPへの米国参加など絶対に無くなった。保護貿易政策をとるのは目に見えている。

1920年代後半にも米国は極端な関税障壁を設け保護貿易政策をとった。それにより世界中の貿易が停滞した。当時スムート・ホーリー関税法(Smoot-Hawley Tariff Act)というのがつくられた。この法律はユタ州選出のスムート上院議員とオレゴン州選出のホーリー下院議員という二人の保護貿易主義者によって提出された為に、この二人の名前を取ってスムート・ホーリー関税法と呼ばれた。1929年10月のニューヨーク株式市場の大暴落に始まった経済危機に直面し、時の大統領フーバー(共和党)は、国際経済よりも国内経済の安定を重視した為、この法律に署名して法律は発効してしまう。当時の米国の経済学者たちはこの法案に猛反対したが、自国中心主義のフーバーには聞き入れられなかった。謂わばアメリカ・ファーストである。

この法律は外国からの農産物の輸入に対して国内農業を保護する為に農作物に高関税をかけるもので、関税率が平均40%にも上り、関税品目も2万点以上に及んだ。当然、諸外国からも報復関税をかけられた結果、米国の貿易額は半分以下に落ち込んだ。また、外国への輸出が困難になった事で、主要各国が経済ブロックを作り、それぞれの経済勢力圏の形成が対立に発展していった。日本も当時の主力輸出品は生糸、木綿などの農産物だったので、大きなダメージを受ける事になった。結局、この関税法を契機として、国際的に貿易が減少し、この法律自体が恐慌の原因と言われ、更に、第二次世界大戦の原因になったとも言われている。

トランプ新大統領のアメリカ・ファーストとは嘗ての大恐慌を再現してしまう危険を孕んだ思想なのかも知れない。第二の世界恐慌・第三次世界大戦の呼び水にならない事を願うばかりである。

次に、米軍の日本駐留経費の100%負担要求について考えてみたい。韓国の40%負担に対して日本は既に破格の75%も負担している。日本は米軍駐留費の負担額を米国の要求通りに上げるべきだろうか?  私は上げる必要は無いと考える。米国が東アジアでのプレゼンス低下を気に留めないなら、日本から撤退すればいい。世界各国の駐留米軍が帰国したら職の無い退役軍人が米国内に溢れ返り、ただでさえ財政赤字で悩む米国の赤字に拍車が掛かるだろう。やれるものならやってみれば良いのである。世界中で日本駐留ほど楽なものは無いと思い知るだろう。

昨日私は、「日本は現在の様に米国べったりの外交を卒業して、日本の国益追求を第一に国際社会と渡り合える国になるべきである。国家間に永遠に続く同盟など在りはしないのだから。そもそも日米安保は、友情や博愛精神に基づくものではない。日本人は甘い考えを捨てるべきだ。」と書いたばかりだ。

トランプ・ショックは日本人を正常な国民に戻してくれるかも知れない。駐留米軍撤退を危機と考える平和呆け日本人の目を醒ます良い機会でもある。日本人も自分の国は自分で護るものだという普通の感覚を取り戻せば良い。新しい米国の登場によって、日本にとっては経済的には国際社会同様に艱難辛苦が待ち構えていようが、内面的に亡国の淵に立たされている日本人には、天が与え給うた幸運であると考えるべきである。日本人よ、我が日本は日本人の手で護ろうではないか!

最後に、私は最近折に触れ安倍首相を批判してきたが、今こそ安倍晋三首相を心から応援したい。12月15日に予定されているロシアのプーチン大統領との会談を是非成功させて欲しい。米国の時代は終わりつつある。安倍首相は、偶然の幸運かも知れないが、敢えてこの時期を選んでプーチン大統領との会談を設定したのならば、大した先見的嗅覚の持ち主である。米国の内向き政策が明確になった今、ロシアとの平和友好条約締結に向けて一歩でも進捗できるなら、対中共牽制には何よりの効果が期待できる。トランプ新大統領に足下を見られてカネを毟り取られる愚を避け、プーチン大統領とガッチリと手を組んでいただきたい。それが日本の国益である。勿論、米国を軽視せよなどとは言わない。相変わらず米国は日本にとって重要な国である事には変わりはない。