《英極秘文書が明かす「対日宣戦布告」時のソ連による公電遮断という汚い手口。日本は出発点からして不利な「北方領土返還要求」の変更を全面的に見直す良いべきだ。》


旧ソビエト連邦は1991年12月に解体した。併し、旧ソ連が日本人に対する数々の残虐行為と共に盗み取った樺太南部を始めとした〈本来の北方領土〉は、今のロシアが引き継いで手放そうとしない。ならば、旧ソ連が行なった〈国際法破りの裏切り行為〉も〈非人道的行為の数々〉も、今のロシアがその責任も受け継いでいる事になる。ゴルバチョフ氏、エリツィン氏、メドベージェフ氏、プーチン氏の各大統領が率いてきたロシア政府に日本政府は果して正統な抗議と要求をしてきたのであろうか? 〈歴史の正義〉を語った事が一度でもあったのだろうか?


答えは恐らく否である。日本政府は唯ひたすら〈北方四島の返還〉を要求するばかりで、真面に〈非人道的行為を問い質し〉たり〈歴史の正義〉を語った事は記録に残っていない。別に謝罪や賠償を求める必要は無いが、〈歴史の正義〉を蔑ろにしてはいけない。国家間の交渉には〈大義〉が必要である。


安倍首相とプーチン大統領は相性が良いそうだから、お互いが政権の座に就いている内に、数ある諸問題を解決して、是非とも平和条約締結に漕ぎ着けて頂きたいものである。併し、昨年末の日露首脳会談ではロシアは領土問題では殊のほか頑なで、結果は期待された「ヒキワケ」どころではなかった。ロシアに強硬だったオバマ大統領に変わって、妙に親ロシア姿勢の発言が多いトランプ時期大統領の登場がプーチン大統領に制裁解除の期待を持たせ、ここで日本に大幅譲歩する必要はないと判断させたのだろう。多くの日本国民は残念がったが、寧ろ〈北方領土返還交渉を始めとした対露関係を包括的にゼロから見直す〉良い機会を与えられたと捉えたい。


交渉の俎上に乗せるべき課題は北方四島や経済協力だけではない。大東亜戦争の最末期、日本が広島に原子爆弾を投下された後、長崎に二発目の原子爆弾を投下されるその当日の午前零時に日本は旧ソ連軍に「日ソ中立条約」を一方的に破られて、寝耳に水の裏切り攻撃を受けた。そして〈数々の残虐行為〉の果ての〈日本軍将兵86万人以上の強制連行、奴隷的強制労働、うち凡そ一割が祖国の土を踏めなかった〉。この旧ソ連軍の行為は、〈武装解除した日本兵の家庭への帰還を保証〉した「ポツダム宣言」に違反するものだった。こう言った、時が経っても不問に付されてはならない問題も、首脳同士では虚心坦懐に話し合っていただきたい。建設的ではないなどと言い訳をして、言い難い内容を避け〈歴史の正義〉を語らないでいては真の首脳同士の信頼関係、況してや平和条約など結べる筈はないのだから。


昭和20年8月9日午前零時を以って、旧ソ連が「日ソ中立条約」を破って参戦した時点では、旧ソ連の宣戦布告が日本政府に届いていなかった事が、一昨年の英国立公文書館所蔵の秘密文書公開で明らかになった。宣戦布告を通告された佐藤尚武 駐ソ連大使が日本の外務省宛てに打った公電が旧ソ連当局によって電報局で封鎖されていたのである。


旧ソ連は内実を伴わない宣戦布告をしてから約1時間後に満州(中国東北部)や樺太南部、占守島を始め得撫島に至る千島列島などで一斉に武力侵攻を開始した。その約4時間後にタス通信の報道などで参戦を知った日本は正に不意打ちを喰らわされたのである。米国に宣戦布告が無いままに「騙し討ち」をされたと散々「卑怯だ」などと文句を言われてきた日本であるが、戦勝国を騙る旧ソ連は事実上事前に宣戦布告をしなかったばかりか、それ以前に「日ソ中立条約」を一方的に破棄して、然も日本の敗戦を決定づけた最初の原子爆弾投下後に参戦してきたのだから、卑怯と言えばこれ程の卑怯はない。


日米開戦に於ける真珠湾攻撃で対米宣戦布告が約1時間遅れた事で、日本は騙し討ちをした卑怯な国と、東京裁判などで散々汚名を着せられたが、敗戦直前の汚い闇討ちで、数々の日本の領土を奪ったスターリン首相の犯罪行為が改めて明らかになっても、今、それを責める国は〈日本も含めて〉ただの一国も無いのはどういう訳か?


秘密文書は昭和20年8月9日、日本の外務省から南京、北京、上海、張家口(モンゴル)、広東、バンコク、サイゴン、ハノイの在外公館に旧ソ連の宣戦布告を伝える電報で、英国のブレッチリー・パーク(政府暗号学校)が傍受、解読したものである。この文書は英政府の最高機密文書「ウルトラ」として保管された。


電報を要約すると「ソ連は8月9日に宣戦布告した。正式な布告文は届いていないが、日本がポツダム宣言受諾を拒否するなど、対日参戦の趣旨と理由を書いたソ連の宣戦文の全文と日本政府の声明がマスコミで報道された」などと書かれている。外務省が旧ソ連による正式な宣戦布告ではなく、マスコミ報道をベースに旧ソ連の侵攻を在外公館に通知した事が分かる。タス通信のモスクワ放送や米サンフランシスコ放送などから参戦情報を入手したのである。


旧ソ連のモロトフ外相はモスクワ時間の8月8日午後5時(日本時間同日午後11時)、クレムリンを訪問した佐藤大使に宣戦布告文を読み上げ手渡した。モロトフ外相が暗号を使用して東京に連絡する事を許可した為、佐藤大使は直ちにモスクワ中央電信局から日本の外務省本省に打電した。併し、外務省欧亜局東欧課が作成した「戦時日ソ交渉史」によると、この公電は日本には届かなかった。モスクワ中央電信局が受理したにも関わらず、意図的に日本電信局に送信しなかった為だ。


正式な宣戦布告文が届いたのはマリク駐日大使が東郷茂徳外相を訪問した10日午前11時15分。旧ソ連が侵攻してから実に約35時間が経過していた。


そもそも「宣戦布告」を開戦前に相手国に通達しなければならないなどという事は国際法の何処にも無いし、それまでの戦争慣例でも実行された事は先ず無かった。だから「真珠湾攻撃」は騙し討ちでは無いが、戦勝国である米国が殊更それを強調するなら、日本も旧ソ連に同じ事を言う権利はある。旧ソ連は〈輪をかけて汚い騙し討ち〉を仕掛けてきたのだ。それを今まで日本政府は一度も指摘してこなかった。旧ソ連とその後継国ロシアも自らの非を認めた事は一度も無い。こんな片手落ちはないだろう。


日本が8月15日にポツダム宣言を受諾し、降伏文書が調印された9月2日以降も、武装解除した北方領土の日本軍及び民間人に襲いかかった旧ソ連軍は、一方的に戦闘と民間人への乱暴狼藉・強姦・虐殺を働いた。歯舞諸島を攻撃したのは9月3日、全ての攻撃を停止したのは実に9月5日であった。日本が降伏したのは8月15日、戦艦ミズーリ号上で降伏文書に調印したのは9月2日である。日本は最後まで旧ソ連に宣戦布告をしていない。こういう状況が英国が開示した極秘文書で明らかになったのだから、日本政府の対ロシア外交も変化して然るべきだが、安倍政権の対露外交は、せめて2島だけでも返還して貰おうとの思いが透けて見えて、変化の兆しすら見えない。プーチン氏と会談を重ねる度に近視眼的になっていったのではないか。まぁ、安倍首相の努力によって〈日本人島民の制限無きビザ無し訪問〉が実現されるのだから、現時点での成果は充分にあげられたと言ってもいいだろうが、対露体制全体は見直す必要がある。


オバマ氏の米国が仕込んだウクライナ問題でロシアはクリミアを編入した。その良し悪しは別にして、ロシアは日本を含む主要国から経済制裁を受け、念入りにも米国はサウジアラビアと結託して石油増産による原油価格暴落を仕掛け、ロシアを益々追い詰めてきた。


ロシアにとってこういう厳しい状況の時こそ、非力な日本が大国ロシアから譲歩を引き出す千載一遇のチャンスであった。従って対ロシア制裁には中途半端に手加減して参加するべきではなかった。最高機密文書「ウルトラ」を根拠に旧ソ連参戦の違法性、旧ソ連軍の残虐行為、武装解除した旧日本軍将兵のシベリア強制連行と奴隷的強制労働、真岡郵便電信局事件などの史実を指摘して、本来の北方領土である「樺太南部・占守島から得撫島に至る千島列島・北方四島」の返還を要求する声明でも出せばよかったのだ。宣言したからと言って総て戻ってくるなどとは毛頭思わないが、これ位の要求をしない限り「北方四島」は返ってこない。


クリミア編入を機に、欧米以上に強硬にロシアを非難し、従来の北方四島のみの返還要求を引っ込め、本来の北方領土の返還を迫るべきであった。この路線で行けば四島返還の目はあった。トランプ氏の出現はロシアとの領土返還交渉に於いては不運としか言いようがない。併し、仮にトランプ次期大統領の政策転換で、ロシアへの経済制裁が緩和されたとしてもプーチン氏の考える大国ロシアの復活は決して成し遂げられないと指摘しておきたい。


プーチン氏の思い描く大国ロシアは米国やヨーロッパ、そして中共などとの経済交流が活発になっても決して達成できない。プーチン氏が目指す大国ロシアは北方スラブ系民族の伝統文化を棄損する事なく経済大国化する事である。それは〈日本の本格的な支援無くしては絶対に成し得ない〉。米国が保護貿易政策をとる世界になっても、米国はグローバリストとしてロシアの資源をコントロールしようとするだけで決してプーチン氏が望む、北方スラブ系民族の伝統文化を護りつつロシアの経済発展に資する協力などしない。日本以外の国々、特に米国はロシアを経済的喰い物としてしか見ていない。


首脳同士のケミストリーが良いだけでは、日本への最大譲歩「北方四島」の返還など望むべくもない。南樺太、千島列島まで要求して、初めて「北方四島全島」の返還可能性が出てくる。「北方四島」だけを要求しての満額回答など有り得ない。


プーチン氏は分かっているだろうが、もし日本の真価を分かっていないとしたら何れ思い知る事になるだろう。ロシアの現在のGDPは世界第12位、ブラジル、韓国より下である。今のロシアは、嘗ての中共同様、貧しい大国なのである。ロシアが必要としているのは〈貿易の活性化〉では無く、〈先進技術の移転による新しい産業の育成〉である。これができるのは日本だけである。日本は極貧に喘ぐ中共と韓国の近代化を自己犠牲とも思える姿勢で支援した。日本無くして今の中共も韓国も在り得ない。ロシアにとっての日本の価値を日本自身が正確に認識する必要がある。それが認識できていれば、日本はロシアに対してもっと強気に交渉ができる筈だ。


ウクライナ問題で窮地に立つ政治環境を利用して、日本はロシアに最大限の要求を突き付けるべきであった。声高にロシアを批難しながら、水面下でゼロから平和条約締結の交渉をすれば良かった。この方法以外にロシアから「四島返還」を引き出す方法は無いのだから次の機会を待つ他ない。その意味で、一時的にせよプーチン氏に対して外見上の悪者になる覚悟が安倍首相にあるかどうかが気にかかる。両首脳が仲良しのまま変な形で北方四島が運用されてしまうのが心配である。


日本は性悪な戦勝国に国を潰されかかったのに、戦後の苦境から復興すると、まるで金持ちのぼんぼんのような外交交渉しかできなくなってしまった。支那や韓国、そして米国に良いようにカネをタカられ、どの国とも強気な外交交渉ができない国になってしまった。少しはワルにならなければ、これからの国際社会では生きて行けない。外交交渉に於いて「紳士的な国」「温情ある国」「控え目な国」との評価は『愚かな国』と同義語である。日本政府は、特亜の隣人〈中共・韓国・北朝鮮〉から何度となく煮え湯を飲まされても、そこから何も学んでいない。


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▪️対日宣戦布告時、ソ連が公電遮断 英極秘文書 - 産経ニュース

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