《トランプ氏の「アメリカファースト」は、国家分断・人種差別・思想信条の自由の有名無実化を促進し、最終的には白人優越主義国家アメリカを再び蘇らせる危険思想が根底にある。「アメリカファースト」の保護貿易主義の側面だけを見ていると歴史的潮流を見逃す》


オバマ元大統領は、嘗て「歴史上、全ての宗教団体は暴力的な活動を展開してきた」とワシントンで開かれたNational Prayer Breakfast(毎年2月の第1木曜に実施される祈祷集会)に於いて、多くの米国人が信仰する宗教を批判したのだ。これに対し、キリスト教の関係者たちは激怒した。イスラム過激派に続いて、キリスト教保守派からの警戒も強まった。


オバマ氏は十字軍による異教徒弾圧を引き合いに出し「人類は過去の歴史の中で、神の名の下に多くの非道な行為を繰り広げてきた」と述べた。更に「我々は謙虚な気持ちを持ち続ける為に、奴隷制度や黒人差別を容認するジム・クロウ法などの風習がキリストの名の下に正当化されてきた罪深い事実を忘れないようにすべきだ」と自身の歴史観を展開した。


ジム・クロウ法とは、1876年から1964年にかけて存在した合衆国南部の州法で、主に黒人の一般公共施設の利用を禁止制限した法律の総称である。併し、対象となる人種は「アフリカ系アメリカ人」だけでなく「黒人の血が混じっている者はすべて黒人と見做す」という人種差別法の「一滴規定(One-drop rule)」に基づいており、黒人との混血者に対してだけでなく、インディアン、ブラック・インディアン(インディアンと黒人の混血)などの、白人以外の「有色人種」(Colored)も含む。当然、我々 黄色人種も差別の対象となった。


オバマ氏の黒人大統領ならではの異色な言動は、全てが否定されるべきものではない。オバマ氏はオバマ氏なりの使命感を持って大統領になったのだろう。オバマケア然り、不法移民への3年間の猶予を与えた大統領令 然りである。6人に1人が無保険者の米国の現状を考えれば、不備な点が多かろうともオバマケア実現への努力は意義ある行動であったし、否決された事自体に日本人としては首を傾げざるを得ない。不備な点を是正してより良きものに変えていく努力をしないのはどうしてなのか?


日本の「国民皆保険制度」は、伝統的な日本文化の上に打ち立てられた世界に冠たる制度である。5000万人もの米国民が病気になっても無保険者ゆえ病院に行けないなど、最低限の文化的生活すら保証されていない先進国の雄、米国の実態は不幸という他ない。オバマ氏は5000万人の貧困層を救おうとして、保険会社加入者層の反発をかった。反対派の意見は日本では考えられない身勝手なものである。(実際にオバマケアが適応されたのは2000万人であったが…)


不法滞在者に対しても3年間の納税義務を科して、クリアした者に限り滞在を認めるという大統領令も、大袈裟に言えば「現代の奴隷解放」であった。不法滞在者の足下を見て不当な低賃金で苦役を強いる雇用者は、さながら奴隷業者のような存在で、不法滞在者の斡旋は、奴隷売買をしているようなものだった。日本人には無い発想だが、奴隷使役を不道徳と感じない民族が居る事は悲しい現実である。


併し、トランプ大統領が誕生するや、オバマケアも不法滞在者への新たな処遇も、全て廃止された。アメリカは移民で発展してきた国でありながら、移民を排斥する国に変容した。今は嘗ての移民が新たな移民を排斥しているが、トランプ大統領の下では最終的に白人移民は歓迎するが有色人種の移民だけが排斥されるという事態に発展していくだろう。トランプ氏の「アメリカファースト」の真意はここにある。トランプ氏を支持する米国の半数にも上る白人たちにはそういう願望が根底にある。


オバマ氏が演説で「人類は過去の歴史の中で、神の名の下に多くの非道な行為を繰り広げてきた」と言った事が波紋を広げたが、これは言い逃れのしようのない史実である。神の名の下に最も多くの人命を奪ったのが、他ならぬ「キリスト教」である事は疑いない。十字軍は言うまでもなく、大航海時代以前は「異端裁判」「魔女裁判」にとどまっていたが、大航海時代以降は世界各地で「神の名の下」の「有色人種の被害者」は飛躍的に増加した。


白人キリスト教国家は、植民地政策の尖兵として、先ず、宣教師を送り込んだ。インカ、アステカに至っては植民地化より手っ取り早い殲滅作戦で黄金を収奪した。宣教師の使命はキリスト教の布教と同時に本国にあらゆる情報を送る事であった。いつの世も情報は最大の武器である。改宗可能な異教徒・異人種・経済資源の三要素が確認されると、そこはほぼ植民地化された。


こうして有色人種たちは、神の名の下に白人の理不尽に従わさせられた。併し、白人の「神の名の下の我が世の春」は、大東亜戦争終結後の数年後には一変した。アジア各国の独立ラッシュである。日本の「大東亜共栄圏構想」は戦争に敗けこそすれ、白人の身勝手な植民地政策を終わらせた。これを日本人は人類史的偉業と誇っていい。文科省は何故この偉業を日本国民の未来を担う子供たちに教育しないのか?


併し、日本の犠牲により成し遂げられた人類の平等の歴史は僅か70年余りで悪しき方向に逆戻りしようとしている。時代の潮流という大きな振り子が揺り戻しを始めようとしているのだ。アメリカでもヨーロッパでも移民排斥に名を借りた白人至上主義が頭を擡げ始めている。日本が立ち上がる前の〈白人の時代への回帰〉が始まろうとしている。トランプ大統領の誕生やフランスのルペン氏の台頭などは、単なるイスラム国家への警戒感からではなく、〈白人の時代への回帰〉願望という大きな時代の畝(うね)りと捉えた方がいい。


オバマ氏の演説どおり、およそ宗教と呼ばれるものは、「癒しと救い」と同時に「血塗られた側面」を併せ持っている。宗教といえども所詮、人間がつくり出したものである。末法の世・最後の審判などの終末思想(恐怖)により、また、来世の約束(身勝手な欲望)により信仰心を持たせる。それが宗教の悪しき側面である。人に恐れを抱かせて改宗を迫る宗教には嘘が多い。それは恐怖と欲望に裏打ちされた弱い人間が持つ信仰心の宿命的限界であるからだろう。


対して日本は「祭祀」の国である。八百万の神を祭ると同時に、日本は「先祖を祀る」。神だけを祭る、特に一神教民族は異端に不寛容であり、それは争いの種がもともと存在するのと同じ事を意味する。祭祀の国、日本は先祖を祀って生きてきた長い歴史がある。「先祖を祀る」ところに争いは起きよう筈はない。宗教は争いを生み、祭祀は平和を維持する。


日本は「家族」「先祖」「祭祀」「国体」の四つの基軸により、古来より結束してきた。戦後押し付けられた所謂 日本国憲法は、「家族」ではなく「個人」を尊ぶようにつくられている。平和を謳いながら、平和とは必ずしも相容れない「個人の尊厳」を最優先するのは「破壊的悪法」と言わざるを得ない。


オバマ氏の発言を聞いたカトリック同盟会長のビル・ドナヒュー氏は、オバマ氏のコメントを「宗教徒に対して極めて侮辱的で悪質だ」と批判。2016年の大統領選挙の候補者たちも、次々に「大統領の歴史観は間違っている」と声をあげた。私に言わせればオバマ氏の言っている事は「どこも間違ってはいない」。


2012年の大統領選挙で当選まであと一歩という所まで存在感を見せつけたリック・サントラム氏は、熱心なカトリック信者としても有名だ。サントラム氏はオバマ氏の発言を「IS(所謂 イスラム国)の卑劣なテロ行為を正当化する考えだ」と厳しく批判した。


残忍な方法で次々と人質を殺害するISの脅威が国際的に問題視されている中、大半のイスラム教徒は彼等を敵視こそすれ、決して容認していない。全ての宗教徒を危険だと一括りにすべきではない事も事実であるが、そもそもISがイスラムの教えを正しく理解しているとも思えない。彼らはイスラムの名を騙った、ただの凶悪犯の集団である。


元を正せば、アルカイダにしろISにしろ、彼等イスラムを名乗る凶悪犯の集団をつくったのは、白人による中東分取り合戦の結果である。部族連合を無視した国境線は誰が引いたのか。サダム・フセイン、オサマ・ビン・ラディンに武器援助したのは誰なのか。


何より、IS打倒という喫緊の課題に向けて世界が一つにならなければならない今、肝心の米国内で足並みが乱れているのは極めて由々しき問題である。果たして米国は関係国の信頼を取り戻し、共に戦う用意ができているのだろうか。また、そこに多大な予算をかける余力があるのだろうか。


日本は「アメリカファースト」の根底に流れる白人たちの願望を正確に理解しつつ、トランプ新政権に協力しながら、アメリカだけに頼る現状から一刻も早く脱却して、自主防衛を果たせる国に成長しなければならない。それが成就したとしても、日本一国では中共に打ち勝つ事はできない。日米同盟は勿論、インドなどとの軍事同盟も模索するべきだし、核保有も真剣に検討するべきだろう。歴史のパラダイムの転換期に日本一国がお花畑に居る夢を見続けている訳にはいかない。


--------------------

▪️Christian conservatives furious after Obama says all religions have historically committed violence

http://kdvr.com/2015/02/06/christian-conservatives-furious-after-obama-says-all-religions-have-historially-committed-violence/