▪️食用に向かない材料をくっつけて美味しくしたり、新鮮さを保ったり、最先端技術ならいとも簡単。外食時に知らないうちに口にしている「製品」がこんなにある。


大きな赤身の塊肉が台に載せられ機械に吸い込まれていく。上から剣山のような何十本もの針が降りてきて肉に突き刺さる。針の先から液体が注入されボワッと肉が膨張しひとまわり大きくなる。針の抜き刺しが繰り返され肉の「加工」が終わる。加工後の肉をスライスすると美しい霜降りが現れる。「インジェクション肉」の完成だ。肉には液状化させた牛脂が注入された。軟化剤なども添加される為、脂がのって柔らかい高級霜降り肉のような味わいに変わる。


こうした手法は以前から外食産業では当たり前のように使われていた。食品加工技術は目覚ましい進歩を遂げている。「外食する場合、自宅で料理して食べるものとは全く別の〝食品〟を食べていると思った方がいい」


加工肉にはインジェクション肉の他に2つの種類がある。「細かな肉を集め結着剤でくっつけて形を整える『結着肉』と、硬い肉の筋を抜いて酵素添加剤などを加えて柔らかくした『柔らか加工肉』がある。特に結着肉は相当量が流通している。サイコロステーキなどは、内臓や脂身、すね肉などの細かい端肉を結着剤で固めてカットした結着肉。激安の焼き肉店などで提供されるカルビやハラミなどに多い。結着肉を焼いてみると、脂分が多いため異常に火が上がったり、肉がばらけるという」


肉に使われる結着剤は、リン酸ナトリウム、カゼインナトリウム、増粘剤などの食品添加物。こうして作られた肉も「ステーキ」などと表示されていた事は、一連の食材偽装問題で話題になった訳だが、きちんと調理すれば安全性に問題は無いという。


消費者を騙して店舗が儲ける為ではなく、利用法が限られていた牛肉を活用する為に生まれた技術だった。「業界用語の『ババ牛』乳の出なくなったホルスタインの経産牛は硬くそのままでは食べられない肉質だが、インジェクションの技術により食肉として利用する価値が出てきた」


「柔らかい」「脂がのっている」ということが美味しさの条件になっているいま、それを安価に実現できる加工技術が急速に普及していった。それは魚介類にも広がり、最新の〝調理〟技術が駆使されている。


回転寿司店やスーパーなどで販売されるネギトロの軍艦巻きはマグロの中トロを叩いたものに刻んだネギが載ったものと思ったら大間違い。安価なものの場合、キハダやカジキといったマグロの「赤身」が使われる。口に入れた時の滑らかな食感はショートニングという人工油脂や精製ラードが混ぜられている。


「安いネギトロは全体の2割が魚ではなく脂。但し味が薄くなってしまうので、化学調味料なども入れ、美味しいと感じるように味が調整されている」ネギトロを醤油に付けたら、醤油皿全体に脂が広がる。その理由はこの製法にある。


脂は、食感を滑らかにするだけでなく、うま味を出すためにも使われる。たとえば、レトルトカレー。通常、カレーは野菜や肉などさまざまな具材を入れて煮込まれるため、食材から自然なうま味が溶け出す。しかし、美味しいカレーを安価で提供しようと思うと、具材は最低限の量に抑えて作らねばならない。そこで活躍するのが「牛脂」だ。


肉のうま味をもっとも手軽に出せるのが、この牛脂。だが、ルーの中に入れると分離してギトギトになってしまうので、脂をルーと一体化させる乳化剤が投入される。カレーの場合、安いものほど牛脂や乳化剤が多く含まれる傾向が強い。


価格を安くするために「カサを増す」という手法も多用されている。ハンバーグや肉饅の具、ミートボールなどでも、植物性たんぱく質(大豆などから作られたたんぱく)が半分以上入ったものが普通。特に顕著に表れているのがエビフライ。冷凍食品ものに多いが、エビパウダーで風味づけしたタラのすり身などでエビを覆い、衣をつけて揚げている。本体のエビにも「カサ増し」がされている。筋を切ってまっすぐにし長く伸ばす加工が施されている。中共など海外の工場で製造され「のばしエビ」として輸入されている。安価な上に油の吸収も非常によく、高カロリーなフライが完成する。


野菜は普通、切ってから3時間もすれば切り口から黄ばんでくるが、カット野菜やカップに入ったサラダなどは、何時間たっても変色せず新鮮なままだ。これは殺菌剤のプールに浸してからパックされているからだ。食品に使われるのは、次亜塩素酸ナトリウム。高濃度だと漂白剤として使われる薬品だが薄めれば殺菌効果のみで安全性は問題ないとされる。食材そのものではなく、例えばパックされた刺身を新鮮に見せる為の業務用ラップや照明など、見せる技術も普及している。


クリスマスケーキは12月23~25日に需要が集中する為、管理が難しい商品の一つ。クリームを使った生ものではあるが直前に作っていたのでは間に合わない。そこで力を発揮するのが冷凍技術だ。事前に作ったものを冷凍して保存し、店頭に並べる前日に解凍する。ショートケーキなどの場合は、スポンジの状態で冷凍し販売前日にデコレーションを仕上げる。売れ残った場合、翌日に安売りされるのが常だが、それでも売れなかったケーキは、上に載ったトッピングなどは再利用に回され、残りは家畜のエサにされることもあるという。


表示を見てもわからない。素人には加工しようがないと思われる食材にも、鮮度を保つための見えない技術が隠されている。例えば米。加工食品用に米を炊く際は、炊飯添加剤が入れられており冷めても柔らかくてうま味があり、時間が経っても黄色く変色しないご飯ができあがる。こうしたご飯は、おにぎりや弁当だけでなく外食チェーン店でも使われている。おにぎりや弁当の場合、添加物が入っているか否かは、表示されている原材料名を確認すればいいと思うかもしれないが、ここに食品表示の落とし穴がある。


原材料に添加物が使われている場合、その量が僅かであれば『キャリーオーバー』として表示しなくてもいい事になっている。つまり、おにぎりの原材料のご飯は表記する必要があるが、そのご飯が炊かれる際に添加された物質は記載の必要はない。農林水産省が規定している現在の表示基準では消費者は隠れた材料を知る事はできない。飲食店の場合はそもそも表示義務がない。だからこそ、あの手この手で、商品をより安く、より見栄えよくする方法が編み出されてきた。


ファミリーレストランや居酒屋、スーパーなどで提供される食品の作られ方については添付写真の表を参照。全ての食品がこのように作られている訳ではないが、業界では常識的に使われてきた技術ばかりだ。


外食で使われている食品は『食べもの』だが工業製品のように作られている。もはや、おにぎりは「おにぎりのような食べもの」エビフライは「エビフライ風の食べもの」と考えた方がいい。


食品偽装問題を受けて外食産業各社は次々とメニュー表示の変更を始めている。例えばファミリーレストラン『ガスト』は「豚肉の生姜焼き和膳」というメニュー名を「生姜だれ和膳」に変更。理由は「店舗で肉を焼いていないから」


豚肉の生姜焼きは確かに企業の調理工場では焼いているが、各店舗では加熱調理(レンジでチン)して提供しいる。『店で焼いていないのでは』というご指摘を受けないようにメニュー表記を変更したという。今やファミリーレストランや居酒屋などの外食チェーン店では、冷凍食品を電子レンジで加熱して提供するのは常識だ。入ったばかりのバイトでも、焼き鳥はチンするだけ、サラダも切ってあるものを器に盛るだけでできる。職人がいないからこそ安価で提供できる。


産地が異なっていたり実際とは違う材料を記載したりという偽装は正すべきだ。併し「店舗で作っていないので自家製ソーセージの『自家製』を削除した」「工場で作られた『手巻きロールケーキ』の『手巻き』は消した」などの例は、そこまで神経質にならなくても、という気がしないでもない。消費者にとっては、どこで焼いていようが『生姜焼き』には変わりない。『生姜だれ』ではいったいどんな料理なのかわかりにくい。本来、消費者目線で見直さなければならないのに『取り締まられないように』と行政のほうを向いてしまっていては本末転倒だ。


どんな工程を経て作られているか、どんな材料を使っているのか、ただでさえ知ることが困難なのに、企業が自己防衛に走るあまり、消費者はますます混乱する。


外食に「本物」が少なくなってきた背景には、消費者が安くて旨いものを求め続けてきた結果という側面もあるだろう。「安くて旨くて健康にいい」などと都合のいいものは存在しえないということを肝に銘じておくべきだ。(現代ビジネスより要約)